天井桟敷 – 身毒丸 / 慈悲心鳥 (J・A・シーザー)

天井桟敷 – 身毒丸 / 慈悲心鳥 (J・A・シーザー)

まなざしの
おちゆく彼方ひらひらと
蝶になりゆく
母のまぼろし

てのひらに
百遍母の名を書かば
生くる卒塔婆の
手とならむかな

つかぬことを伺いますがこの近くに鉄道線路はないでしょうか?

数日前 すぐ近くで汽笛の音を聞いたのですが どう歩いても線路が見つかりません

ぼくの乗る汽車はもう発ってしまったのかそれともまだ来ないのか

ねえ きみ 僕は迷子になったのか?

急がなくちゃ ぼくの体は癪病に蝕まれている
ぼくは死ぬ前にせめて一度だけでも生みの母親の顔を見ておきたいと思って
その消息を知っているという看護婦をさがしあてたのですが
看護婦は昨年の大つごもりに三つになる子を連れて 嫁ぎ先を家出したあとでした

顔だけでもと思って たのんで写真を見せてもらったらば
なんと わたしの産みの母には顔がなかったのです

観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時
照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子

流涕焦がれて嘆かるる
いまは嘆きてかなわじと
時合かなえば鳴る鐘や
これは夢かや 現かや
現の今のなにかとて
年にも足らぬそれがしを
ひとり残して十六夜に
母は先立ちたまふぞや

また汽笛の音が聞こえる
ぼくは自分の乗る汽車を見たい

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